シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

”終劇”


『本当に終わったんだな…』
長きにわたるエヴァとの付き合いも一旦終わりの時を迎え、エンドロールで聴いた宇多田ヒカルの声がリフレインされていた。
「一人映画も慣れたな。」
誰が見てるわけでもない。誰が聞いてるわけでもない。
そんな無意味な一言が、口からついて出るから不思議だ。


   ***


”合理マン”
それが今、会社で呼ばれている僕の名前だ。(本人のいないところでね…)
昔からその嫌いはあったけど友達に恵まれていたのだろう、判断軸が”効率”の僕を面倒だと感じる人は周りにはいなかった。

”聞き分けのいい子”
これが昔、両親が僕に抱いた感想みたい。
「ご飯食べましょう。」と言えばおとなしく椅子に座り、ご飯を食べ終わるまでは他のことは一切しない。
「ねんねしましょう。」と言えば素直に布団の中に入り、眠りにつくまで泣くこともなくじっとしていた。
そうだ。

そんな僕への感想が変わったのは、小学3年生の頃の出来事だった。
当時の僕は、大好きなミニ四駆を肌身放さず持ち歩き、”真っ直ぐで平らな道”を見つけては走らせていた。
両親も、僕のことだから無理はしないだろうと、外で走らせることについてとやかく言うことはなかった。
そんな僕が、手ぶらで返ってきたから家では大騒ぎ。
当の本人は、泣きもせず、わめきもせず、いつも通りに帰宅し、いつも通りに本を読む。
帰宅から3時間ほどして、やっと両親が気づいたほどだった。
事の顛末はこうだ。

いつも通りミニ四駆を走らせる場所を探しながら歩き、見つけては走らせ、見つけては走らせをしていた。
近所の道は大体制覇していたから、少しずつ歩く距離を長くし、知らない土地を散策する。
そんな時に出会ってしまったのが、小学生3人組の男の子たちだった。
見たことは無かった。恐らく僕とは別の学校の生徒だろう。
背格好は同じぐらいだったから、きっと同学年ぐらい。それでも多勢に無勢は一目瞭然だった。
人気だったミニ四駆に目をつけられ、周りに大人がいないことを良いことに、”カツアゲ”をされたのだ。
「おい!そのミニ四駆俺たちにくれよ!!」
「はい。どうぞ。」
こんなに短い”カツアゲ”のストーリーがあるだろうか。
本当にそのまま持っていたミニ四駆をその子に渡し、何事もなかったかのように帰宅していた。
驚いた両親から、「なんであげちゃったの?」と聞かれたとき、僕の答えはこうだったそうだ。

「嫌だって言ったらもったいないから。」

泣きもせず、淡々といつも通りに過ごす僕を見て、その時はじめてちょっと個性的な子だと思ったそうだ。
(小学3年生のこのエピソードで、『ちょっと個性的』で収めるのだから、僕の両親は間違いなく二人だと思う。)

自分では、”変人ではない”と思っているし、無駄だと感じても人付き合いはできる。
そもそも、何を無駄だと感じるかは人それぞれの価値観によるものだから、自分の価値観を押し付けて、周りと足並みを揃えないことこそ、正に、”合理的でない”と思う。
多くはないけど友達はいるし、結婚式のスピーチを任せてくれるような親友もいる。
会社では”合理マン”と言われているけど、悪い気はしていないし、だからといって雰囲気を悪くするようなこともしない。
社会人として、上手に付き合っているつもりだ。

房総の先にある高校で、いつも漫画やゲーム、アニメについて話をしていた大輔が教えてくれたのが”エヴァ”だった。

「洋平!エヴァンゲリオン見たか?」
「エヴァンゲリオン?見てないよ。」
「ガンダムとは違うロボットが出てくるんだけど、なんかリアルでさ。カッコいいんだよ!」
「そうなの?またロボットアニメ始まったんだ。」
「カッコいいから!絶対見たほうが良いって!!」
「分かったよ。で、1話はどんな話だったの。」
「主人公の碇シンジってやつが、父親のもとにやってくるんだけど、その父親っていうのが…」

そこから、僕と大輔のエヴァとの付き合いが始まった。

ロボットアニメだと思っていたエヴァにどんどん難しい言葉が登場し、二人して理解するのに躍起になっていた。
解説本が出たり、『どうやら聖書の話が関係ある』と噂がたてば、キリスト教を全く知らないのに聖書を買ってみたりもした。(当時ブームで買った人は沢山いたけど、あの分厚さ、小難しさで全部読み切った人のほうが少ないだろう。僕もモチロンそのひとりだ。)
衝撃のラストに二人の頭は爆発したけど、それでも僕たちの日常を一気に侵食していったのは紛れもない事実だった。

高校を卒業して、千葉に残る大輔と、東京の大学で寮生活を始める僕とは一旦お別れをすることになる。
学生の間は、年末年始や夏休み帰省するたびに大輔と会い、近況の話をしたり、相変わらずアニメやゲーム、漫画の話で盛り上がっていた。
お互いに就職し、変わらず千葉を拠点としている大輔と、東京を拠点としている僕とでは、顔を合わす機会が減っていった。
人生の転機があれば連絡を取り合うし、(大輔は、恵さんという素敵な奥さんと出会い、今では2人の子供と4人で暮らしている。スピーチは覚悟していたけど、”オタク”な話を封印したスピーチは、薄っぺらいものになってしまった。あまりの薄さに、大輔だけは爆笑していたけど…)年賀状のやり取りも、大輔だけは続いている。

遠くはない。いつでも帰れる距離が災いしているのかもしれないし、忙しいことを言い訳にしているのかもしれないけど、1年に3〜4回あった帰省は、1年に1回、年末年始のみになり、気づけばその1回すら無くなっていた。


   ***


「大輔。元気にしてるかな?」旧友への想いが、風にのっていく。

当たり前にあると思っている絆。

”Beautiful World” - ”Beautiful boy”

今日も空は青い。

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