makita 〜コードレスクリーナー〜

「いってらっしゃい!」
夫の和也と娘の花を送り出してから、気づけばもう2時間が経過している。

季節通りの雲ひとつない澄みきった秋晴れと、季節外れに28度まで上がっていく高気温が混じり合って、
部屋の空気をぐんぐんと温めていく。
グォン、グォンとうなりを上げていた洗濯機も、最後の力を振り絞るかのようにカカカカカッと、小さな鳴き声へと変わっている。
『もう何回この作業を繰り返しているのだろうか?』
疑問が解決したところで何も変わらない現実と、そんな無駄なことを思いついてしまう私自身が少し嫌いになる。
ピー、ピー、ピーと呼ぶ声がする。先程まで弱々しく鳴いていたのに、この変わり様。

今の生活に不満があるわけじゃない。
夫の和也は優しい。今どきの世相を反映させたように当たり前に家事をやるし、娘の花は親馬鹿と言われても構わないくらい、世界一かわいい自信がある。
まとまった休みには旅行にも行くし、記念日は必ず家族でのお祝いを欠かさない。
加えて、私の両親の母の日、父の日の贈り物を毎年一緒に考えてくれるのだから、今の生活に文句を言ったら贅沢なのだと思う。
それでも、今あるものを当たり前に感じ、まだ持っていないものを求めてしまうのは人間の性なのだろう。
そんなちょっと哲学っぽいことを考えてみたところで、今日の天気のように気分が澄み渡らないことも知っている。

天井からぶら下がる物干し竿にかけたハンガーに、取り出した洗濯物を一つ一つ丁寧に干していく。
真っ白に洗われ、透き通るような洗濯物からは、青い勿忘草色の香りがする。
沢山試してきた中でやっと見つけたお気に入りの香り。
自然と呼吸が深くなる。

大小入り混じった洗濯物を拾い上げては最適な場所を想像し干していく。
赤、白、青、黄色、緑。沢山のコードに1本1本ハサミを入れて、慎重に爆弾を解除する。
まるで爆弾を処理する”爆発物処理班”になったかのように、絶妙のバランスを作り上げるのが子供の頃からの楽しみ。
一つでもピンチハンガーの洗濯バサミを余らせてしまったら、
片側に重心が寄って傾いてしまったら、
そこで”THE END”なのだ。

大好きな香りに囲まれ、日々成長していく娘の靴下を干しながら幸せを噛みしめる。
室内で干し終わった洗濯物は、香りとともに重量も増していて、最近では「せーのっ」と掛け声なしでは下ろせなくなっている。
床を擦らないように顔の高さまで上げた洗濯物が歩くたびに頬に当たる。今日はその冷たさが心地よい。

干しているお布団に洗濯物を仲間入りさせる。
すでにたくさんのお陽さまを溜め込んだお布団は、一回り大きくなったようだ。
透き通り輝く洗濯物を静かに揺らす風は、秋の寂しさを存分に含み、私が特別にここにいるのだと感じさせる。

後1時間ほどで出発しなければならないパートの時間を前に、残された家事は掃除だけ。
物置から取り出した白いマキタの掃除機が、精一杯の仕事でホコリを吸い込み始める。


   ***


「ねぇ、ロボット掃除機って便利なのかな?」
「あぁ〜。会社の細川さんがちょっと前に買ったって言ってたかな。その時は、『すごく便利です!』って言ってた気がするよ。ほしいの?」
「すごくほしいかって言われたらそこまでじゃないけど…でも、何となく良いのかなって思って。」
「確かに便利かもしれないけど、この家の広さだったら、まだ今の掃除機で事足りるんじゃない?」
「まぁね…」

実際掃除機をかける時間は15分程度だったし、読書が好きな花は自分で絵本を読んで過ごすことが多いから、家が特別汚くなることも無い。今の掃除機に不満があるかと聞かれたら、それは「無い。」のだ。
それでも気づけば、”ロボット掃除機 おすすめ”で検索している。スマホの入力はお手の物。
”10畳以上におすすめのロボット掃除機はこれ!”、”ロボット掃除機をおすすめできない人の特徴5選”、”忙しい人必見。作業時間0のコスパ最強掃除機”、どれもが魅力的に私を誘ってくる。ズルいでしょ。

昔夫に勧められた洗濯乾燥機は全く魅力を感じず、「本当にいらないの?」と念押しされるほどだったがキッパリと断った。
それなのに、実際は必要なさそうなロボット掃除機が無性に気になって仕方がない。
「欲しい!」と言ったら和也のことだから「買っていいよ!」と言うに違いない。


   ***


5年以上使っているが、まだまだ白く輝いているマキタの掃除機は、私の手の中で思う通りに動き、隅々までホコリを吸っている。
ドラム式の洗濯機がどうしても欲しかった私の推しに折れる形で、和也が欲しがっっていた高額のスティック掃除機からコスパが良いと評判だったマキタの掃除機へと変更し、いまだに大活躍をしてくれている。
大きな病気をすることもなく、家族3人が健康に暮らせているのだから、この掃除機に不満があるわけもない。

今日もカツカツと壁に当たる音を立てながら、小さなホコリを精一杯吸い込んでいく。
気になるほど大きくはないけれど、私達から出てくる小さな気持ちを吸い込んでいく。

さぁ、もう少ししたらパートに行く時間。
今日の晩ごはんは何にしようかな。

makita 充電式クリーナー

よかったらシェアしてね!

コメント

コメントする

目次
閉じる